インビトゥイーン・アイランズ 
―沖縄と香港、二つの島の物語

香港のアーティストによる展覧会

香港と沖縄の歴史には、数多くの共通点が存在する。島であること、戦争の後に欧米列強に植民地化され、その後本国に返還されたこと。そして返還後も、ある種の植民地として政治的に問題を抱えていること。島という地政学的、文化的な本国との距離によって、沖縄も香港も異なる場所としての運命を持つ。

両地域とも年中20度を超える暖かい気候であり、台風に毎年直撃される。文化的にも近いようだ。豚を愛する食文化。香港の離島にある墓は、広い面積で囲われていて沖縄の墓にそっくりだし、あの世の紙幣を燃やす宗教的な慣習も聞けば同じようなものがあるという。人々のおおらかさや、こだわりはないけれどガッツがあり、反骨精神を備えているところも似ているような気がする。

那覇の中心部で展開されるこの展覧会は、あまり知られていない香港の文化や、彼らの日常はどんなものかを映像やインスタレーションで垣間見ることができる。島、境界、自然、政治、日常の断片など、人々の生活と想像力のゆるやかな共通項を含む映像などの作品となっているs。ここ沖縄という島で、兄弟のようによく似た歴史と文化のある異国の島国を知ることは、沖縄の歴史や文化をあらためて振り返ることにもなるだろう。

長谷川 仁美 キュレーター
Hitomi Hasegawa

香港在住のキュレーター、リサーチャー。映像の保存とディストリビューションを行うMIACAディレクター。慶應大学美学美術史学部修士課程修了、ウィーン芸術アカデミーの博士課程に在学中。

これまでの展覧会やスクリーニングは、ソウルのMMCA、ダラス・コンテンポラリー、クロウ・ミュージアム・オブ・アジアンアート、オーバーハウゼン・フィルム・フェスティバル、クンストハーレ/デュッセルドルフ、アルセナル/キエフ、ストックホルム彫刻美術館など。

作品と展示会場

サイラス・フォン

過去からのメッセージ (2020)
シングルチャネルビデオ、カラー、9‘20“
展示会場;レネミア

何気ない朝食の話から始まるこの作品は、ロードムービー風の映像と、韓国語のモノローグで展開する。観客は見ているうちにこれがフィクションであると分かる仕掛けになっている。存在していないフォン自身の娘の口から語られる両親と祖国のエピソードは、家族への愛情や祖国への想いを間接的に感じさせる。異国に移り住んだ香港からの移民の家族の情景を見ることができる。

SAD project, courtesy by artist

盗まれた時間、売り出し中 (2008−2010) 
シングルチャネルビデオ、カラー、9‘20“
展示会場;ジュンク堂

フォンのもっとも初期の作品。通勤、通学時間のレジデンシャルビルの混雑するエレベータードアを固定カメラで撮影したもので、実験的に数秒ごとの単位で、時間で作品を売るというコンセプトを設定し、実際に売れたもの。数秒ごとに開閉するエレベーターのドアの中には、香港のさまざまな世代の普通の人々が一斉に観客を見る。仕掛けとしても楽しめる映像となっている。

・ニン

ジョン・ルカへようこそー遺失物案内 (2022) 
シングルチャネルビデオ、カラー

息を吸う (2021) 
エッチングとアクアチント、45cm x 38cm

息を吐く (2021) 
エッチングとアクアチント、45cm x 38cm 

展示会場:レステル、水上店舗

美大を卒業し、刺青を彫る魅力にとりつかれたリ・ニンの作品は、彼が愛する、エイリアンのビジュアルを作ったHRギーガーの作品を思わせる。描く絵や刺青は緻密で力強く、独特なクリーチャーで満ち溢れている。紙の隅々まで書き込まれたいっぱいのイメージ。毒があり、気味が悪かったり、生理的になにかぞくぞくとさせられたりする筆致である。そこにあるのは政治や外の世界と関係なく、自身の創造力を追求する情熱だろう。リのスタジオには、同じようにサイエンスフィクションの世界や不思議なものを描くアーティストたちが集まっている。リの初めてのアニメーション、‘ジョンルカへようこそー遺失物案内(2022)は人間の記憶を喰うようになった遺伝子操作による突然変異のクラゲを、人々が自分の記憶を捨てるために利用する物語だ。ジョンルカとは、台湾の中国本土の人々の言語、客家(ハッカ)で故郷の意味である。捨てられた記憶のプールが洪水で溢れ出す島は、故郷をもたない客家たちの故郷なのだろうか。これは想像上の島の不思議なクラゲの物語だ。

Man in the Box (2019), Print and collage, Courtesy by artist
リ・ニン

マップ・オーシャン(ヴァレリー・ポルトフェイクス)

北緯2546、東経12331 25°46′N - 123°31′E  (2022)
ビデオインスタレーション、 漁師網、カッティングシートほか 
展示会場;Think Of

島のテリトリーとしての意義は大きい。マップ・オーシャンは、石垣島にある自身の家の近くに尖閣神社が移築されたことを知り、島をめぐる人々の争いと、誰のものでもない自然である海や島の象徴としてやどかりを使い、島や海の大自然、国家権力と人々の欲望を対比させ新作を製作する。香港に20年以上住み、今年石垣島に移住したマップ・オーシャンは、マップ・オフィスとしてこれまで活動していた。島や海、自然と人間をテーマにした作品が数多いが、自身の建築家としてのキャリアも活かした作品が多数ある。
マップ・オフィスとして新たに制作したこの作品は、今回の展覧会のための新作。
島と政治、自然、地政学などの複雑なレイヤーを詩的にまとめ上げたインスタレーションとなっている。

Concrete Jungle / The Parrot's Tale. 2007 
Installation;Courtyard and building right in front of the main access to the Arsenale, Venice, Italy. Courtesy by artist

タン・クオック・ヒン

北緯2546、東経12331 25°46′N - 123°31′E  (2022)
ビデオインスタレーション、 漁師網、カッティングシートほか
展示会場:レステル、水上店舗

グランパ・タン(2017)はタンの祖父が生きていた時のフッテージを編集して作られた。そこには香港の新界にある村の風習や生活を見ることができる。秋の中秋の祭り、家族で話し合う昔の写真や飾りに使うザボンの葉。新年のごちそう、村の人々のダンス。血縁関係に重きを置いた伝統的な家庭で、祖父の思い出とも断片ともつかない会話と映像が綴られる。

この作品は、展覧会では実際の祖父が集めていたさまざまな品々とともに展示された。今回水上店舗の、昔誰かが住んでいたと思しい痕跡ののこる小さな部屋に展示される。誰ともわからない沖縄の人の生活の跡が残る畳の部屋で、香港の新界の村の映像が流れる。

Photo; Alpine Tango (2020) performance, Courtesy; artist and Hong Kong Arts Center

ナタリー・ロー・ライライ

コールド・ファイア(2019)
シングルチャネルビデオ、カラー、10“16” 
展示会場:浮島ブルーイング

 ナタリー・ロー・ライライは、トラベルジャーナリストをしていたことがある。彼女の作品、コールド・ファイア(2019)は、飛行機の安全の栞を集めるナタリーの、飛行機への断片的な思いからはじまり、有機農法で作られた小麦粉でパンを練る手、ミクロに撮影された発酵の泡など、日常の断片とナレーションで叙情的に綴られる。日常と非日常、その対比と日々への想い。飛行機とは、日常から非日常である旅行や外国への繋ぎ目でもある。映像の切り取り方と対象の移り変わりが美しく、つい見入ってしまう魅力のある映像作品となっている。

Video still, courtesy by artis